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8話 強さへの渇望、大切な人を守るための飽くなき向上心

Auteur: みみっく
last update Date de publication: 2025-12-25 11:44:04

「面白い依頼ですか……?」

 ミリアの澄んだ瞳が、さらに大きな疑問符を浮かべる。彼女にとって、今や「皇子」とも呼ばれる立場になったユウヤが、泥臭い冒険者の溜まり場に自ら足を運ぶ理由がすぐには理解できないようだった。

「そうですわ! ユウヤ様、もし戦いが必要な依頼であれば、わたくしが……」

 ミリアが守護欲に溢れた表情で身を乗り出そうとしたが、ユウヤはそれを苦笑いで制した。

「大丈夫だって。ただの様子見だよ。それに、こういうところから世の中の動きが見えることもあるしね」

 ユウヤは、慌ただしく立ち働く王城の兵士たちを背に、どこか懐かしい場所へ向かうような足取りでギルドへの道を歩き出した。背後からは、まだ少し納得がいかない様子のミリアと、ようやく顔色が戻ってきたシャルの「お気をつけて!」という声が微かな風に乗って聞こえてきた。

「強いモンスターが現れているなら率先して戦って、もっと強くなってミリア達を護れるようにならないとね」

 ユウヤは、さらりと、だが固い決意を込めてそう言った。その言葉には、大切な女性を自分の手で守り抜きたいという、真っ直ぐで力強い意志が宿っている。

「え?……えっと……それ以上強くなられるおつもりなのですか?」

 ミリアは、宝石のような瞳を丸くして絶句した。既に人知を超えた力を振るい、皇帝にさえ一目置かれる存在である彼が、さらに高みを目指そうとしている。その飽くなき向上心に、驚きを隠せないようだった。

「え? 俺は、まだまだ弱いし戦闘経験も不足してるよ~」

 ユウヤが本気で困ったように笑いながら謙遜すると、周りで聞き耳を立てていた護衛たちが、顎が外れんばかりの驚愕を顔に浮かべた。大陸最強クラスの力を持ちながら、自分を「弱い」と言い切るその無自覚な圧倒的強者感に、彼らは戦慄を覚えたのだ。

「……はぁ……分かりましたわ。先に帰ってお待ちしておりますわ」

 ミリアは、降参したように小さく溜息をつき、それでも嬉しそうに微笑んだ。ユウヤのその実直な優しさこそが、彼女が愛してやまない部分なのだろう。

「うん。ありがと」

 一方、シャルロッテはすっかりユフィリスと意気投合してしまったらしく、「今日は王城に泊まりたいですわ!」と、先ほど謁見の間で瞳を輝かせてせがんできた。ユウヤは快く許可を出していたので、彼女たちの見送りは断り、一人でギルドへと向かうことにした。

 王城の重厚な門をくぐり抜け、活気溢れる街並みへと踏み出す。背後には、夕日に染まり始めた王城がそびえ立ち、前方の喧騒からは、革の焼ける匂いや鉄の打たれる音が、懐かしい記憶と共に漂ってきた。

 ギルドは王城から目と鼻の先にあるため、夕暮れ時の街並みを楽しみながら歩いて向かった。

 木造りの重厚な扉を押し開け、ギルドの中に一歩足を踏み入れた瞬間、喧騒が嘘のように止んだ。酒を酌み交わしていた荒くれ者たちも、装備の手入れをしていたベテランたちも、一斉にこちらを見て固まっている。

 ……なに? 全員に注目されているんだけど。

 背中に突き刺さるような視線を感じつつも、まあ気にせずに、俺は壁一面に貼り出されている依頼ボードへと向かった。羊皮紙の独特の匂いが漂う中、新しい依頼を一枚一枚眺めていく。

「あの……ユウヤ様?」

 不意に、横から控えめながらも親しげな声が掛かった。見ると、以前から仲良くしている受付嬢が、少し上気した顔で近くに寄ってきていた。

「やっぱりユウヤ様だわ。王城の方から凄い噂が流れてきていて、ギルド内でも持ちきりなんです。まさか、本当にお越しになるとは……」

 彼女は、尊敬と好奇心が入り混じったような眼差しで俺を見つめている。どうやら、例の「皇帝のお気に入り」だの「次期皇子」だのといった話が、早くもここまで伝わっているらしい。

「何か、お探しですか? 今のユウヤ様に相応しい依頼となると……あちらの『特別枠』のものでしょうか」

 彼女が指差したのは、禍々しい紋章が押された、一般の冒険者では触れることすら許されない高難度依頼書が纏められたファイルのような本だった。

「ユウヤ様……来て頂けたのですね♪」

 受付嬢は、潤んだ瞳でこちらを見上げ、嬉しさを隠しきれないといった様子で声を弾ませた。そのどこか夢見がちな表情に、ユウヤは少しだけ気恥ずかしさを覚えた。

「お。えっと……名前を聞いてなかったよね?」

 ふと気付いて問いかけると、彼女は「あ……」と小さく口を開けて、恥ずかしそうに肩をすくめた。

「あ……普段は、いちいち名乗らないので……忘れていました。わたくしニーナと言います。改めまして宜しくお願いします」

 ニーナは丁寧に一礼し、顔を上げた時にはその頬を淡い桜色に染まっていた。

「うん。宜しくね。で、ご機嫌そうだね?」

「え? いえ……普段通りですよ?」

 ニーナは慌てて首を振り、誤魔化すように俯いて話した。しかし、その手は所在なげに服の裾をいじっており、隠しきれない高揚感が全身から溢れ出していた。

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